コンパクトデジタルカメラは手軽に写真を撮れて重宝します。しかし、コンパクトゆえに内蔵ストロボで撮影するとどうしても反射や影がきつくなりがちです。そこで、もう少しなんとかならないかと検討してみました。
コンデジの内蔵ストロボで撮影
私はちょっとした写真を撮るのにキャノンのコンパクトデジカメ Power Shot A590ISを愛用しています。このカメラは電源が単三電池二本なので稀にしか使わない場合に重宝します。
コンデジ全般に言えると思いますが、カメラの内蔵ストロボを使って撮影すると手軽さの反面、ストロボの光が強く反射し、影もきつく出てしまいます。また、被写体が極端に白い、または黒いものだったり、鏡面反射する場合は背景との露出のバランスがうまく取れず、いかにもコンパクトカメラでストロボ撮影しました、みたない絵になってしまいます。
コンデジの内蔵ストロボはなぜきつくなる?
ストロボの光が強く反射し、影もきつく出る点については、ストロボの発光部が非常に小さい事に起因します。
ストロボが発光した時の光源部が小さいため、どうしても被写体に現れるハイライトは小さくなってしまい、その分ハイライトの明るさが明るくなってしまうのです。同じ理由で影についてもボケず、シャープになってしまいます。発光部が小さいのは本体サイズが小さくなるように設計されたコンデジでは仕方ない話なのですが。
この問題を解決するには光源部の面積を大きくするしかなのですが、内蔵ストロボを改造するわけにはいかないので、ストロボ前面にトレーシングペーパーのような半透過する素材を置いてディフューズするぐらいしか手がありません。または、手軽さを捨てて外部のストロボを使う方法もあります。
ストロボ撮影で背景も適正な露出にするには
通常ストロボを使って撮影する場合はストロボの発光量は自動制御されます。この制御は被写体からの反射光を計測して行うのですが、被写体がグレーの時に適正露出になるよう制御されます。このため、被写体が白かったり鏡面反射する場合は露出オーバーになると判断されて発光量が抑えられます。これにより、被写体は元の色合いよりも暗くなり、背景はほぼ露出アンダーとなってしまうのです。被写体が黒い場合はこれと逆に被写体は白ぽっく、背景が露出オーバー気味になります。ただし、内蔵ストロボの最大光量は小さいため、黒いものの場合はあまり酷いことにならないかと思います。
これらは被写体の色合いや反射率に応じて撮影時に露出補正やストロボ調光補正を行うことで補正できます。
しかし、定常光(被写体を照らす周囲からの光)が不足しており、主にストロボ光のみで撮影する条件において極端な露出アンダーとなるケースでは、露出補正や調光補正だけでは解決できません。この場合、ストロボの反射が強く、その明るい部分で適正露出に抑えるようにストロボが調光されているためです。
うまく撮影するには定常光を明るくするか、光源の面積を大きくして反射を抑えるしかありません。
定常光を明るくするというのはそもそも暗いからストロボを使うわけでなのでどうしようも無いです。
外付けストロボならばディフューザーやバウンズという方法がありますが、内蔵ストロボの場合は光源を大きくするといのは物理的に無理です。
所々の問題解決のため外付けストロボを使う
コンデジの内蔵ストロボにディフューザーを付けるのは困難であるため、今回は外付けのストロボを用いて何とかすることにしました。外付けストロボを使うのだったら、最初から一眼レフを使うのが楽なんですがここは実験という事でコンデジを前提に検討してみます。
外付けストロボをどうやって接続するか
一応オプションで専用の外付けストロボがあるようですが、私は持っていないため、EOS用クリップオンタイプのストロボをマニュアル発光させる方向で考えていました。ところが、A590ISにはシンクロ端子はおろか、クリップオンタイプのストロボを付けるためのホットシューすら無いのです。オプションのストロボはどうやって接続するのでしょう、不思議です。
ホットシューやシンクロケーブルでの接続はあきらめ、スレーブ機能を使うことにしました。
スレーブ機能とは他のストロボの発光を拾って発光できるストロボ機能のことです。スレーブユニットという検出機構だけをユニット化し、シンクロ端子やホットシューを経由して接続したストロボを発光させる装置もあります。
そこで手持ちのクリップオンタイプのストロボを使うおうと取説を見るとスレーブ機能はあるものの、マスターからスレーブへ調光データを光通信して光量比を設定するという高度な機能は持っていても、単純に他の発光を拾ってマニュアル発光することはできない模様。4万円以上もしたのに使えない奴です。
単体のスレーブユニットも持っていないため、眠っていた大型ストロボを引っ張り出してきました。大型と言ってもスタジオ用としては比較的小型な物で、モノブロックと呼ばれるタイプのストロボです。これにはスレーブ機能が内蔵されており、他のストロボの発光に合わせて発光できます。なんか大げさになってきました。
内蔵ストロボの光量を手動調整できるか
外付けストロボの件は解決しましたが、まだ大きな問題が二つ残っています。
内蔵ストロボの光を拾って、外部のストロボを発光させるわけですから内蔵ストロボの光量を抑えないと、内蔵ストロボの反射や影が強く出てしまいます。このため、内蔵ストロボは通常の自動調光から発光量を手動で調整するよう切り替える必要があります。
2つ目の問題は、カメラ側から調光できない外付けストロボを使うため、絞り優先モードでは正しく露出できない可能性があります。このため絞り値とシャッタースピードを設定できるマニュアルモードが必要です。
まずマニュアルモードですが、コンデジではマニュアルモードが省略されている機種が多いのにA590ISはちゃんとありました。エライ。
さらに、マニュアルモードにするとメニューから内臓ストロボの光量を手動で設定できる事が分かりました。これで問題は解決です。
カメラのスペックを確認する
ストロボのセットアップを行うためにカメラの絞りや同調速度を確認しておきます。A590ISではこんな感じになっています。
- ストロボ同調速度:1/500s
- 最小絞り:F8.0
- 絞り開放:F2.6〜5.5(ワイド〜テレ)
ストロボ同調速度とはストロボ撮影が可能な最も早いシャタースピードを示します。よって、このカメラでは500分の1秒以下のシャッタースピードであればストロボ撮影が可能という事になます。ただし、今回は外部ストロボをスレーブで使うのでもっと遅いシャッタースピードにする必要があります。
また、最小絞りと開放時のf値からズーム全域で確実に設定できるf値は5.5〜8.0になります。およそ一段分しかありません。マニュアルモードで選択できる絞り値はf5.6、f6.3、f7.1、f8.0になります。なお、このカメラではf5.5も設定できるようです。
実験する
という事で、問題点はすべてクリアできました。早速実験してみましょう。
被写体としてHPの電卓を使用してみました。曲面を描いた金属外装がユニークな電卓です。金属部の反射率が高いのでストロボ撮影は難しそうです。ちなみに逆ポーランド記法では無く、普通の電卓でした。
外付けストロボはちょっと古いですが、プロペットのmono220という機種を使いました。出力は220W/sですが、無段階の調整機構が付いているため使いやすいです。これにアンブレラレフを付けて一灯だけで撮影します。
順調に進むかと思えたこの実験で、カメラの設定時に衝撃の事実が判明しました。なんとA590ISの内蔵ストロボは三段階(1/3,2/3,Full)しか調整できないのです。設定メニューのバーグラフ風の表示に騙されました。ドットが沢山あるので細かく調整できるように見えますが、一段階操作するといつくかのドットがまとめて消えたり、点いたりします。何ですか、コレ。
下の写真はメニューでストロボ光量を2/3に設定した時の表示です。一段階下げるとドットがごっそり消えて1/3の位置になります。また1/3以下には設定できないため、仕方なく1/3に設定しました。
内蔵ストロボの出力はあまり下げられないし、細かな調整も不可能ですが、せっかくなので実験を継続します。
一枚目が外付けストロボを用いた写真です。外付けストロボはトップ気味にセットしています。ストロボメーターを見ながら露出が1/125s、f5.6半になるようストロボの出力を調整しておき、コンデジ側は1/125s、f7.1の設定で撮影しました。カメラの液晶画面で確認したときはちょうど良さそうに見えたのですが、撮影後パソコンで確認するとややオーバー気味でした。やはり1/3では内蔵ストロボの影響は大きいようです。
外付けストロボはアンブレラなので光がよく回っており、影が柔らかくなっています。また、反射もかなり抑えられていますが、内蔵ストロボの影響が残っています。
二枚目は一枚目と同じ撮影条件ですが、外付けストロボを発光させないで撮影したものです。夕方の薄暗い部屋で撮影したので、定常光はほとんどない状態でした。
三枚目はコンデジだけで撮影したものです。絞り優先モードで内蔵ストロボは自動調光になっています。一枚目に比べて影も反射もきつくなっています。また、金属面でストロボの光が強く反射するため、発光量が抑えられて結果的に周囲が暗くなっています。絞り優先モードで絞り値 f7.1、内蔵ストロボは自動調光で撮影しました。Exifを確認すると、シャッタースピードは1/60sでした。
まとめ
当初の目的であるきつい反射や影は解消することが出来ましたが、外付けストロボを使ってマニュアル設定で撮影するのはちょっと大げさすぎでした。
ホットシューを持ったコンデジか、一眼レフであればクリップオンタイプのストロボでも天井バウンズ等のテクニックを使えば簡単な準備と操作で綺麗に撮影できるはずです。したがって、今回のようにホットシューを持たないコンデジては綺麗なストロボ撮影は不可能ではないが色々面倒なので高望みするな、という結論とします。
今回は外付けストロボで何とかしようとしたため、少々残念な結果でしたが、周囲をレフ板で囲むと影は少し柔らかくなるような気がするので別の機会にチャレンジしてみたいと思います。
最後にマニュアル撮影時に内蔵ストロボの最小出力が1/3までしか下げられない件ですが、発光部にトレペでも貼りつけたら光量を下げられる事に今さらながら気づきました・・・。